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Fundamentals

生物多様性とは (What is Biodiversity)

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概要

生物多様性(Biodiversity)とは、「Biological Diversity」の短縮形であり、地球上の生命の豊かさと、それらが織りなす繋がりの総体を指す概念です。単に「生物の種類が多いこと」だけを指すのではなく、遺伝子、種、生態系という3つの階層における多様性と、それらの相互作用を含みます。1980年代後半にE.O.ウィルソンらによって広められたこの概念は、現代の環境科学・政策における最重要キーワードの一つとなっています。

理論的背景

起源と発展

  • 1980年: トーマス・ラブジョイが「Biological Diversity」という言葉を使用。
  • 1985年: ウォルター・G・ローゼンが「Biodiversity」という短縮語を提唱。
  • 1986年: スミソニアン協会で「National Forum on BioDiversity」が開催され、E.O.ウィルソンが同名の著書を編集・出版したことで広く普及しました。

定義の変遷

当初は保全生物学(Conservation Biology)の文脈で「失われつつある自然の価値」を表現するために用いられましたが、1992年の生物多様性条約(CBD)において、国際法上の明確な定義が与えられました。

「すべての生物の間の変異性(variability)をいう。これは、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。」(CBD 第2条)
現在では、これに「人間社会との関わり(生態系サービス)」や「文化的多様性とのリンク」を含めた包括的な解釈が一般的です。

詳細解説

なぜ「多様性」が必要なのか?(Portifolio Effect)

生態学における重要な理論に「ポートフォリオ効果」があります。金融資産を分散投資することでリスクを低減できるように、生態系も多様な種が存在することで、環境変動(気候変動、病害虫の発生など)に対するレジリエンス(回復力・適応力)が高まります。
  • 機能的冗長性 (Functional Redundancy):
異なる種が似たような役割(ニッチ)を持っている場合、ある種が絶滅しても、別の種がその機能を代替できるため、システム全体が崩壊しません。

現代の危機:第6の大量絶滅

現在、地球は地質学的な歴史の中で6回目の「大量絶滅期」にあると言われています。
  • 絶滅速度: IPBESによると、過去1000万年の平均と比較して、少なくとも数十倍から数百倍のスピードで種が消滅しています。
  • 要因(HIPPO): E.O.ウィルソンは主な要因をHIPPOと整理しました。
- Habitat destruction(生息地破壊) - Invasive species(侵略的外来種) - Pollution(汚染) - Population(人口増加) - Overharvesting(乱獲)

最近ではこれに Climate Change(気候変動) が加わり、最大の脅威となっています。

批判的検討

概念の曖昧さと測定の困難さ

生物多様性」はあまりに包括的な概念であるため、定量的な測定・モニタリングが極めて困難です。
  • 指標の乱立: 種数(Species Richness)、シャノン指数、系統的多様性など多数の指標があり、どれを使うかで評価が変わります。
  • 「種」の定義問題: そもそも「種(Species)」の定義自体が、分類群によって異なり(生物学的種概念 vs 系統学的種概念)、正確な種数のカウントを難しくしています。

経済的価値換算への懸念

生態系サービスや自然資本会計など、自然を経済価値に換算する動き(自然の金融化)に対し、「本質的価値(Intrinsic Value)を軽視している」「自然を商品化すべきでない」という倫理的な批判も根強く存在します。

IKIMONができること

「測定の困難さ」こそがIKIMONのチャンス

生物多様性の保全において最大のボトルネックは、「どこに・何が・どれくらいいるか」という基礎データ(ベースラインデータ)の不足です。 専門家による詳細な調査はコストと時間がかかりすぎるため、広範囲・長期間のデータを集めることは不可能です。

ここでIKIMONの「市民参加型モニタリング」が不可欠なソリューションとなります。

  • 厳密性よりも「網羅性」と「即時性」
  • AIによる同定支援で「種の定義問題」のハードルを下げる
  • 楽しみながらデータを集めることで、コスト問題を解決する
IKIMONは、学術的に困難とされてきた「生物多様性の広域モニタリング」を、テクノロジーと市民の力で突破するプラットフォームです。

参考文献

  • Wilson, E. O. (1988). Biodiversity. National Academy Press.
  • CBD (1992). Convention on Biological Diversity.
  • IPBES (2019). Global Assessment Report on Biodiversity and Ecosystem Services.

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