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ネイチャーポジティブ (Nature Positive)

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概要

ネイチャーポジティブ(自然再興)とは、生物多様性の損失を止め、「反転(回復軌道に乗せる)」させること、およびその状態を指します。 カーボンニュートラル(温室効果ガス実質ゼロ)と対をなす概念として、2030年までの世界共通の目標(グローバル・ゴール)となっています。具体的には、2020年を基準として、生物多様性の損失を食い止め、2030年までに回復傾向へ転換し、2050年までに「自然と共生する世界(Living in Harmony with Nature)」を実現する道筋を示します。

理論的背景

「限界」の認識

従来の環境保全活動(被害を減らす、影響を緩和する)だけでは、生物多様性の急速な減少を止められないことが明らかになりました。愛知目標(2010-2020)の多くが未達成に終わった反省から、「マイナスをゼロにする」だけでなく、「プラスにする(Positive)」という野心的な目標設定が必要となりました。

ロック・ストロームらによる提唱

Global Commons Allianceや、プラネタリー・バウンダリーの提唱者であるヨハン・ロック・ストロームらが中心となり、「Nature Positive」という包括的なスローガンを打ち出しました。これがG7サミットやCOP15での合意形成を牽引しました。

詳細解説

3つのフェーズ

  1. 〜2020年: 生物多様性の損失が続いている状態。
  2. 2020年〜2030年: 損失を止め、回復軌道へ(Halt and Reverse)。ここが「ネイチャーポジティブ」の核心期間。
  3. 2030年〜2050年: 完全な回復へ向けた持続的な上昇。

ネイチャーポジティブ経済

世界経済フォーラム(ダボス会議)の試算によると、ネイチャーポジティブへの移行は、年間最大10兆1000億ドル(約1400兆円)のビジネス機会と、3億9500万人の雇用を創出するとされています。 日本でも環境省・農林水産省・経済産業省・国土交通省が連携し、「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を策定しています。

具体的なアクション

企業や自治体には以下が求められます。
  • サプライチェーンの把握: 原材料調達が自然に与える影響の評価。
  • 再生型農業: 土壌回復、農薬削減。
  • サーキュラーエコノミー: 資源循環による採取圧の低減。

批判的検討

定義の曖昧さとグリーンウォッシュ

「カーボンニュートラル」はトン(t-CO2)という単一指標で測れますが、「ネイチャーポジティブ」は指標が複雑です。「木を植えたからポジティブ」といった単純化や、科学的根拠の薄いPR(グリーンウォッシュ)が横行する懸念があります。 STAR指標やENCOREなどの評価ツールも開発されていますが、まだ統一基準はありません。

IKIMONができること

IKIMONは、ネイチャーポジティブの実現度合いを測る「指標(KPI)」の計測ツールとして機能します。
  • 「回復」のエビデンス: 例えば、「工場の緑地で、5年前は10種しかいなかったチョウが、今は30種確認された」というデータは、まさしくネイチャーポジティブ(回復軌道)の証明です。
  • ストーリーテリング: 数値だけでなく、実際の生き物の写真によって、「自然が戻ってきた」というポジティブな実感をステークホルダーに伝えることができます。
  • 参加型のアクション: 従業員や地域住民が「回復を見守る」プロセスに参加することで、ネイチャーポジティブ活動そのものを自分ごと化できます。

参考文献

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