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Well-being

生物多様性と主観的幸福度 (Biodiversity and Subjective Well-being)

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概要

「緑が多いこと」だけでなく、「生物の種類が多いこと(種多様性)」そのものが、人間の幸福度に直接寄与するという研究結果が増えています。 単調な緑地よりも、多種多様な植物や鳥類が存在する環境の方が、主観的幸福度(Subjective Well-being: SWB)が高いことが、近年の大規模な疫学調査で示されています。

理論的背景

単なる「緑の量」から「質」へ

従来の環境心理学や疫学研究では、衛星画像から得られるNDVI(正規化植生指数=緑の量)と健康指標の相関を見るものが主流でした。 しかし、2010年代以降、「同じ緑の量でも、質の高い(多様性のある)自然の方が効果が高いのではないか?」という仮説に基づき、生物多様性データと組み合わせた研究が行われるようになりました。

詳細解説

欧州QOL調査の分析 (Methorst et al., 2021)

前述のドイツ・キール大学の研究チームによる画期的な発見です。 欧州26カ国、35,000人以上の「生活の質(QOL)」データを分析した結果、以下の事実が判明しました。
  1. 鳥は幸福の指標
居住地の鳥類の種数が増加することは、主観的な生活満足度の上昇と強く相関していました。
  1. 経済効果との比較
「鳥の種多様性が10%増加すること」による幸福度の上昇幅は、「世帯収入が10%増加すること」による上昇幅とほぼ同等でした。
  1. 植物・哺乳類
哺乳類の多様性とは有意な相関が見られませんでした(夜行性で目に付きにくいからと推測)。

英国シェフィールド市の研究 (Fuller et al., 2007)

都市公園の利用者へのインタビューと、実際の生物調査を突き合わせた研究です。
  • 利用者は、植物の種数が多い緑地ほど、心理的リフレッシュ効果(Reflection / Restoration)を高く評価しました。
  • 興味深いことに、利用者は正確な種数を把握できているわけではありませんでしたが、「何となくここは豊かだ」と直感的に知覚しており、それが好影響を与えていました。

批判的検討

因果の向き

「多様性が高い地域は高級住宅街であることが多く、住民のEQや収入が高いから幸福なだけではないか?」という交絡因子の問題は常にあります。 最新の研究では所得や治安などを統計的に補正していますが、完全に排除するのは困難です。

「気持ち悪い生き物」の問題

多様性が増えると、人間にとって不快な虫(ハチやケムシなど)も増える可能性があります。アレルギーや恐怖感を持つ人にとっては、多様性の増加がマイナスに働くケース(Ecosystem Disservices)も存在します。

IKIMONによる貢献

IKIMONは、「生物多様性による幸福」を最大化し、自然との共存を促進します。
  • 多様性の再発見: 普段見過ごしている「多様性」に名前をつけ、可視化することで、ユーザーが住む地域の豊かさを実感できるきっかけを作ります。
  • ポジティブな理解: 嫌われがちな虫でも、美しい写真や生態の解説を通じて「興味深い隣人」として捉え直す好機を提供します。

参考文献

  • Methorst, J., et al. (2021). The importance of species diversity for human well-being in Europe. Ecological Economics.
  • Fuller, R. A., et al. (2007). Psychological benefits of greenspace increase with biodiversity. Biology Letters.

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