概要
バイオフィリア(Biophilia)とは、「Bio(生命)」と「Philia(愛、親和)」を組み合わせた造語で、「人間には、生命や生命に似たプロセスに対して、先天的に親近感を抱く傾向(本能)がある」とする仮説です。 著名な社会生物学者E.O.ウィルソンによって1984年に提唱されました。「なぜ人は花を飾るのか」「なぜペットを飼うのか」「なぜ自然の風景を見ると落ち着くのか」といった現象を、人類の進化史に基づいて説明する概念です。理論的背景
進化心理学的アプローチ
人類の歴史の99.9%は、自然環境の中での狩猟採集生活でした。 都市などの人工環境で暮らすようになったのは、進化のタイムスケールで見れば"つい最近"の出来事です。 そのため、人間の脳や身体は、依然として「自然環境に適応したまま」であると考えられます。- サバンナ仮説: 人間が見て「美しい」「住みたい」と感じる風景(開けた草原、点在する木々、水辺)は、人類発祥の地であるアフリカのサバンナの環境に酷似していると言われます。
- 生存本能: 植物が豊かな場所は水と食料がある場所であり、動物がいる場所は狩りのチャンスがある場所です。そのため、それらに引きつけられる性質が遺伝子に残った個体ほど生き延びやすかったという説明がなされます。
詳細解説
バイオフィリアの3つの側面
ケラート(Stephen Kellert)らは、バイオフィリアを以下のようにも分類・拡張しています。- 実利的関心: 食べ物や資源としての生物への関心。
- 自然的・生態学的関心: 生き物の生態や自然の仕組みへの知的好奇心。
- 審美的・象徴的関心: 美しさへの感動や、詩や芸術のモチーフとしての自然。
バイオフィリック・デザイン
この仮説を建築や都市計画に応用したのが「バイオフィリック・デザイン」です。 オフィスに植物を置く、自然光を取り入れる、木材を使用する、窓から自然が見えるようにするといった工夫により、働く人のストレスが減り、創造性や生産性が向上することが、Amazonのオフィス(The Spheres)やGoogleの事例などで実証されつつあります。批判的検討
「バイオフォビア(自然恐怖症)」の存在
人間は自然を愛するだけでなく、ヘビやクモ、暗闇に対して先天的な恐怖(バイオフォビア)も持っています。これもまた進化的な適応(危険回避)です。「自然なら何でも良い」わけではなく、安全が担保された状態での自然接触が重要であることを示唆しています。科学的証明の難しさ
あくまで「仮説」であり、遺伝子レベルで「自然愛好遺伝子」が特定されているわけではありません。しかし、文化や時代を超えて普遍的に見られる傾向として、多くの心理学者や生物学者に支持されています。IKIMONとバイオフィリア
IKIMONは、人々が自然とのつながりを再確認する手助けをします。- 好奇心の再発見: アプリを通じて身近な生き物の多様な姿に触れることで、日常の中で見過ごしていた自然への好奇心(センス・オブ・ワンダー)が刺激されます。
- 都市生活への潤い: コンクリートに囲まれた都市生活の中でも、足元の小さな自然に気づくきっかけを提供し、精神的な豊かさを育みます。
- バイオフィリックな体験: 生物の有機的な美しさに触れる体験そのものが、ユーザーにとっての心地よい時間となることを目指しています。
参考文献
- Wilson, E. O. (1984). Biophilia. Harvard University Press.
- Kellert, S. R., & Wilson, E. O. (Eds.). (1993). The Biophilia Hypothesis. Island Press.